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大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)1223号 判決 1985年4月30日

原告

福田行弘

右訴訟代理人

竹田実

塩川吉孝

門間秀夫

小寺史郎

被告

山口義美

被告

藤野興業株式会社

右代表者

藤野静男

右両名訴訟代理人

岡島嘉彦

被告

富田林市

右代表者市長

内田次郎

右訴訟代理人

俵正市

重宗次郎

苅野年彦

草野功一

坂口行洋

寺内則雄

被告

富士火災海上保険株式会社

右代表者

渡辺勇

葛原寛

右訴訟代理人

阪口春男

野田雅

今川忠

廣田研造

三木秀夫

主文

一  被告らは各自原告に対し金一六五一万一七二〇円及びこれに対する昭和五八年一月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その四を被告らの負担とし、その一を原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事   実≪省略≫

理由

一事故の発生について

請求原因1(事故の発生)の(一)ないし(三)記載の各事実及び末が昭和五八年一月一五日死亡した事実は当事者間に争いがなく、右各事実に、<証拠>を併せ考えると、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は、大阪府富田林市寺池台の市街地を東西に通じる歩車道の区別のあるアスファルト舗装された二車線の道路上で、路側帯を含む車道部分の幅は約九メートルで、東方へ約五パーセントの下り坂となつており、制限時速四〇キロメートル、駐車禁止の交通規制がなされ、本件事故が発生した昭和五八年一月一五日午前九時四〇分ころは天候は晴れで路面は乾燥していた。

2  被告藤野興業の従業員である被告山口は、右同日被告車を運転して助手の丸本干城と共に富田林市内で同社の業務である普通ゴミの収集を行つていた。被告山口は、本件事故現場である同市寺池台三丁目二番四四号付近の道路東行車線上で一旦停車して丸本が北側歩道上に集積されていたゴミを被告車に積み終わるのを待ち、その後約四〇メートル東に進んで反対車線上の南側に同車をエンジンをかけたまま停車させ、下車して傍の歩道上の集積ゴミを回収して被告車後部から積み込んだ。そして同被告は同日午前九時四〇分ころ、同車後方約三六・八メートルの地点で歩道上のゴミを回収していた丸本に向かつて「そこまでバックする」と告げただけで同人に被告車後方の安全確認や後退の誘導をするよう指示することなく運転席に乗り込み、左のサイドミラーで同車左後方を確認し、運転席右側窓から右後方を振り返りながら被告車を発進させ、時速七キロメートルで西へ後退させたが、そのとき同車後部でゴミを直接投棄していた末に衝突し、同女を転倒させて同車下部に引きずりこんで後記傷害を負わせ、南側歩道上で中山喜久子が大声を出しているのに気付き不審に思つて被告車を停車させ、降車して同車下方に末が倒れているのを見て自分が末を轢いたことを知つたが、それまで同女には気付いていなかつた。

3  末は、本件事故現場北側の原告方からゴミの入つたビニール袋を持つて道路を小走りに横断してきて、停車中の被告車後部付近でゴミを直接同車に投棄した直後、前記のとおり後退してきた同車後部に衝突されて転倒し、同車下部の後輪デフレーシャル下部と路面との間で胸部を圧迫され、肋骨骨折、胸部圧迫の傷害を受け、これによるショック性肺水腫により、同日午後一時四六分ころ大阪府南河内郡狭山町岩室一一二八番地辻本病院で死亡した。

以上の事実が認められる。もつとも、前記甲第四号証中立会人中山喜久子の指示説明部分及び前記乙第一号証中には、被告車が後退して進行中に末が同車後部に近付いてきてゴミを捨てようとしたところ被告車に衝突された旨の供述部分があるが、証人中山喜久子の証言によると、同証人が末を見たのは一瞬のことでそのときの被告車の動静を十分見ずに同車運転席の方へ走つて行つて同車を止めようとしたことが認められるのみならず、前記甲第六号証中立会人中山真紀の指示説明部分及び甲第一五、第一六号証(末が道路を横断してきたところから目撃しており、末が被告車後部に接近したとき同車は停止中であつた旨の一貫した供述をしていて信用するに足りる。)と比較すると、前記供述部分はにわかに採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二責任原因について

1  被告山口の責任(民法七〇九条)

前記一(事故の発生について)で認定した事実によると、被告山口は被告車を後退させるに際し、自車後方の運転席から見えない位置にゴミ投棄などのため人が立ち入ることが予想できたのであるから、自車後方の安全を確認して乗車したうえ、助手に自車後方の安全確認と誘導を行わせこれに従つて後退すべき注意義務があるのにこれを怠り、自車後方の安全を十分確認せず、助手の丸本に自車後方の安全確認も誘導もさせずに被告車の後退運転を開始した過失により本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条に基づき本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

2  被告藤野興業の責任(自賠法三条本文)

請求原因2の(二)(被告藤野興業株式会社の責任)記載の事実は原告及び同被告間に争いがなく、右事実によると、同被告は自賠法三条本文に基づき本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

8 被告富田林市の責任

(一)  被告富田林市が一般廃棄物の収集、運搬及び処理業務を被告藤野興業に委託していたことは原告及び被告富田林市の間に争いがなく、右事実に、<証拠>を併せ考えると、次の事実が認められる。

(1) 被告富田林市は、廃棄物処理行政を遂行するにあたり、業務の適正迅速な処理を確保するため条例等で収集回数、収集処理体制等の処理計画を定め、事務及び財政の効率化並びに地元業者育成を考慮して処理業者への委託という方式で廃棄物処理業務を実施してきており、本件事故当時、同市の区域内の右業務は、同市の直営によるものがゴミについて約一六パーセント、屎尿について約八パーセントを占め、その残部について被告藤野興業及び阪南清掃の二業者に委託する方式で実施されており、右委託業者とは別に被告富田林市が廃棄物処理の許可を与えた業者はなかつた。

(2) 被告富田林市は被告藤野興業に対し、法定の委託基準に適合していることを審査したうえ、廃棄物のうち屎尿について昭和四〇年一一月ころから、ゴミについて同四四年四月ころから、期間を一年間と定めて廃棄物収集運搬業務を委託し、以来本件事故に至るまで毎年右委託契約を更新してきたところ、本件事故当時実施されていた被告富田林市(以下単に市ともいう。)と被告藤野興業間の右委託契約(期間昭和五七年四月一日から同五八年三月三一日まで)によると、次の事項が定められている。

(イ) 市は被告藤野興業に廃棄物収集運搬の委託地区を指定し(一条、三条、別表(1)(2))、同社は一般廃棄物の収集回数を定めた業務基準計画に従つて遂行する責任があり(四条)、業務の実施にあたり業務の日割、地区割等あらかじめ市の指示または承認した方法によらねばならず、市は必要に応じてこの指示及び承認の取消し、変更及び特別業務の指示をすることができ被告藤野興業は正当な理由がある場合のほかこれを拒むことができない(五条一項、二項)。

(ロ) 被告藤野興業は市に一日一回連絡員を派遣し市の指示に従わねばならず、業務を実施した日毎にその実績を市の定める業務日報により速やかに報告しなければならない(五条三項、五項)。

(ハ) 被告藤野興業は、収集した廃棄物の処分、処理方法について市の指示に従わなければならない(七条)。

(ニ) 市は随時被告藤野興業の使用する機器を点検して不備を認めたものはその取替、補修を命ずることができ、また同社は業務に使用する全車両について所定の対人・対物賠償責任保険に加入しなければならない(八条)。

(ホ) 被告藤野興業は、その従業員の行為に対しすべての責任を負わなければならず、市は不適当と認める従業員の交代を求めることができる(九条)。

(ヘ) 市は被告藤野興業が委託契約に違反したり完全に履行しなかつたりしたとき、市の指示に従わないとき、その他市において不都合と認める行為があつたとき等には委託地区の削減、就業停止、委託契約の解除等必要な措置を講ずることができ(一一条)、同社の過失により、または正当な理由がなく業務基準計画及び報告に関する契約条項もしくは市の指示に違反したときは、市は委託料を減額することができ(一四条)、同社の責に帰すべき行為により市が損害を受けたときは、市が決定する損害金を同社に支払うべき委託料から控除し、なお不足額があるときはこれを徴収する(一五条)。

(ト) 被告藤野興業は理由のいかんを問わず委託契約の全部または一部を他人に譲渡したり下請させたりしてはならず(一六条)、委託契約について疑義が生じたときは市の指示に従うものとする(一七条)。

(3) 被告藤野興業は廃棄物の収集運搬、一般土木その他の業務を行うことを目的とする株式会社で、本件事故当時、従業員は八五名、被告車を含めて清掃車六台を有し、一五名が清掃車乗務に従事しており、廃棄物処理については被告富田林市の外、千早赤阪村、太子町、河南町からも委託を受けて業務を行つていたが、富田林市内の本件委託契約所定の地区については独占的に廃棄物の収集運搬業務を受託して実施していた。

(4) 被告藤野興業は被告富田林市が従前から条例等によつて定めていた処理計画及びこれに基づく本件委託契約所定の業務基準計画等の条項に従つて廃棄物の収集運搬業務を継続して遂行してきていたし、昭和五七年の台風による災害発生時には右契約五条二項に基づく特別業務の指示による業務を行つたことがあつた。

ただ、同社の使用する車両台数、各車両の乗務員の指名、収集区域内の具体的な収集経路、収集時刻といつた業務遂行の細目にわたる事項については同社に任されており、市が右細目についてまで具体的指示を与えたことはなかつた。また、市直営のゴミ収集車には富田林市と表示されていたが、被告車を含む被告藤野興業所有の収集車には富田林市を示す標識等はつけられていなかつた。

(5) 被告藤野興業は本件委託契約五条三項に基づき毎日特定の事務員を市に連絡員として派遣し、市では委託業者に対する連絡箱を設置して特定の業務を行う必要が生ずるたびごとに連絡票に記載し連絡箱に入れて連絡員を通じて被告藤野興業に指示して右業務を行わせていた。

(6) 被告富田林市は、実際には被告藤野興業に業務を実施した日毎に業務実績の報告をさせたり、市の職員を派遣して収集処理の実態を調査したり、また同社の従業員を不適当と認めて交替を命じたりしたことはなく、市民から苦情などがない限りは処理計画及び委託契約に定めた通りの収集業務が行われているものと取り扱つて委託料の支払などをしてきた。また、同市は昭和五七年及び同五八年に各一回、同社の作業員の氏名等について文書で照会し同社はこれに回答した。被告富田林市は廃棄物の処理計画の変更を行つたのは本件事故後の昭和五八年一〇月ころに一度行つただけであるが、その際には文書等によつて被告藤野興業など業者にも周知徹底を図つた。

(7) 被告富田林市は、ゴミの取り忘れ等について市民から苦情が出る等作業内容に不都合が認められた場合には、被告藤野興業など業者に対して注意や指導を与えて速やかに処理させてきているが、実際に委託契約一四条所定の制裁措置を発動したことはなかつた。

(8) 本件事故の発生後、被告富田林市の議会で同事故に関し裁判費用支出や業者指導のあり方などが問題にされたことがあり、同市は被告藤野興業に対し、二度と本件のような事故を起こすことのないよう、また、安全運転に徹するよう指導を行つた。

以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二) ところで、一般に市町村の一般廃棄物処理業者に対する一般廃棄物処理業務の委託は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下廃棄物処理法と略称する。)六条三項、同法施行令四条に基づきなされるものである(なお、旧清掃法(昭和二九年法律第七二号)及び同法施行令(昭和二九年政令第一八三号)はそれぞれ廃棄物処理法及び同法施行令により全文改正されたが右と同趣旨の規定を置いていた。以下同じ。)ところ、本来、一般廃棄物処理業務は地方公共団体である市町村の固有事務に属し(地方自治法二条二項ないし四項、六項、別表第二・二(十一))、原則として市町村はみずからその区域内の一般廃棄物の処理について一定の処理計画を定め、かつ、これに従つて実施する責務を有し(廃棄物処理法六条一項、二項)、例外的に当該市町村自身による処理が困難であること等の事情があるときに限り市町村長が処理業者に処理の許可を与えることができるとされている(同法七条)こと、市町村が処理業者に一般廃棄物処理業務を委託する場合は、その委託基準として受託者の資格につき一定の厳格な要件を規定するとともに基本的な処理計画の作成を委託しないこと、一般廃棄物の処分を委託するときは市町村において処分の場所及び方法を指定すること等が規定されている(同法施行令四条)一方、廃棄物処理法七条所定の市町村長による許可手続及び許可要件を必要としていないこと等の法令の趣旨に鑑みると、右委託による一般廃棄物処理は、処理業者に対する許可の場合と異なり、市町村がその実施主体となり、みずから定めた処理計画の範囲内において行なうものである点において市町村の直営の場合と実質的には何ら相違はなく、委託処理業者は市町村のなすべき業務を代行するにすぎないものと解するのが相当である。

そして、前記認定事実のうち、①被告藤野興業は本件委託契約所定の区域内において一般廃棄物処理業務を独占的に担当していること、②市の一般廃棄物処理計画及びこれに基づく委託契約上の条件に従つた収集運搬業務が義務づけられていること、③委託契約上の権利義務が被告藤野興業に専属し、それを他人に譲渡し又は下請を禁止する等当事者の非代替性を定めていること、④連絡員の派遣、特別業務の指示など市が被告藤野興業に対して指示できる体制があり、そのように運用されていたこと、⑤委託契約不履行等に基づく制裁措置があること、⑥市は照会回答によつて業者の使用する作業員の氏名等を把握できること、⑦被告藤野興業が業務の対価として得るのは市からの委託料のみであること、⑧市民からの苦情の処理の方法、⑨本件事故発生後、市が被告藤野興業に対し前記のような指導を行つたことなどを併せ考えると、被告富田林市は被告藤野興業及びその従業員に対し直接または間接に支配・監督を及ぼして廃棄物処理業務を行わせていたものというべきである。

もつとも、右委託契約中、業務報告に関する条項は現実には実施されておらず、また被告富田林市は作業車の車種の選定、車両台数の把握、乗務員の指名、収集区域内の収集経路、収集時刻の指定などを行つていなかつたけれども、これら業務遂行の細目について業者に一定の裁量を認めることは行政運営上の種々の考慮及び制約に基づくやむをえない事象とみるべきであつていずれも前記支配・監督の実質を左右するに足りるものとしてとらえることはできない。かえつて、市としては前記委託契約により業者の使用機器に不備を認めたときは取替・補修を命じうるし、所定の対人・対物賠償責任保険への加入義務を業者に負わせており、また不適当と認める従業員の交代を命じうることからすると、現にこれらの措置がとられた実例の有無はともかくとして、市が被告藤野興業に対しその所有車両及び従業員に対し具体的に支配・監督をなしうる地位にあることは明らかである。

ところで、自賠法三条にいう運行供用者とは、自動車の運行によつて利益を得ているものであつて、かつ、自動車の運行を事実上支配、管理することができ、社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場にある者(最高裁判所昭和五〇年(オ)第二九四号、同年一一月二八日第三小法廷判決、民集二九巻一〇号一八一八頁参照)であることを要し、右支配、管理の程度は、個々の車両の運行を実際に逐一かつ具体的に支配命令し指揮するまでの必要はなく、直接または間接にそのような指揮監督をなしうる地位にあることをもつて足りると解すべきであるところ、前記認定の廃棄物処理法に基づく委託の趣旨、被告富田林市における廃棄物処理業務の遂行にあたつての方法、並びに本件委託契約の内容、趣旨及びその運用の実態等を考慮すると、被告富田林市は、被告車が廃棄物の収集運搬業務の執行として被告藤野興業の従業員によつて運行されている範囲内において、その運行によつて利益を得ており、かつ、その運行を事実上支配、管理することができ、社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場にある者ということができる。そして、本件事故は被告車が廃棄物の収集運搬業務の執行として被告藤野興業の従業員である同山口が運転中に発生したものであるから、被告富田林市は被告車の運行供用者として自償(ママ)法三条本文に基づき本件事故によつて生じた損害を賠償すべき責任がある。

4  被告富士火災の責任(自賠法一六条一項)

請求原因2の(四)(被告富士火災海上保険株式会社の責任)記載の事実は原告及び同被告間に争いがなく、右事実によると、同被告は本件事故による末の死亡により被告藤野興業が支払責任を負う損害賠償額を自賠法施行令所定の保険金額の限度内において支払う責任がある。

三損害について

1  逸失利益 五六六万一六六三円

<証拠>によると、末は明治四三年八月二一日生まれで当時七二歳の健康な女子で、泉大津市松之浜で独りで和裁仕立ての仕事をしながらその収入と国民年金法に基づく老齢年金(昭和五七年八月の改定による同月以降の年額三五万七五〇〇円)とにより生計を営んでいたこと、同女は昭和五三年一月夫と死別して以降原告からの仕送り等経済的援助を受けることなく独力で生計を維持してきたこと、同女の遺した財産は郵便貯金約二五万円、現金七、八万円程度であつたこと、和裁仕立てによる収入は月によつて平均せず概ね八万円から一五万円程度であつたことが認められ、前記甲第三号証及び同第八号証中の末が無職であるとの記載部分は前掲各証拠に照らし採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によると、末の死亡による逸失利益の算定基礎としての収入額は、少なくとも昭和五七年賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計女子労働者学歴計六五歳以上の平均給与年額一九六万九四〇〇円の八割程度の収入一五七万五五二〇円があつたものと認めるのが相当であり、また同女は本件事故当時国民年金法に基づく老齢年金年額三五万七五〇〇円(右収入額の約二割三分に相当)が支給されていたこと、末の年齢、性別、家族関係等諸般の事情によれば、その生活費は収入の三割と考えられ、同女は本件事故に遭わなければ昭和五七年簡易生命表による七二歳女子の平均余命一二・八五年のうち少なくとも六年間就労することが可能であるとみられるから、以上を前提として同女の死亡による逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して(その係数五・一三三六)本件事故当時の時価を求めると、五六六万一六六三円となる(円未満四捨五入。以下同じ。)。

2  病院関係費用 二万三〇〇〇円

<証拠>によると、原告は請求原因3の(三)(病院関係費用)記載の各支出をしたこと、このうち近畿寝台サービスへの一万二〇〇〇円は末の処置料及び病院から自宅までの搬送費、タクシー代八五〇〇円は警察署からの指示により死亡診断書を入手するための交通費、紙おしめ及び毛布代等は辻本病院内及び本件事故現場から同病院への搬送中に要した諸費用であることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はないところ、右タクシー代は本件事故による末の死亡により通常必要とされる出費とはいえずその額も相当でないから本件事故と相当因果関係のある損害とは認められず、これを除いた残額二万三〇〇〇円を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

3  葬儀関係費用 五〇万円

<証拠>によると、原告は本件事故による末の死亡による葬儀関係費用として別紙目録(一)記載の合計八七万八〇五〇円の支払をした事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はないところ、末の年齢、社会的地位その他諸般の事情を併せ考えると、右支出額のうち五〇万円を本件事故と相当因果関係のある葬儀関係費用の損害と認めるのが相当である。

4  雑費 二二〇〇円

<証拠>によると、原告は末の死亡に関し、諸雑費として別紙目録(二)記載の合計三七万八八〇〇円の支出をしたこと(なお、事故証明書、戸籍謄本他手数料の合計額は二二〇〇円の誤記と認めるのが相当である。)このうち富田林警察への出頭費用は原告及びその義父福田好雄が本件事故の刑事事件の捜査に関し同署に出頭するため松之浜と富田林間の交通に要したタクシー代であること、南海線定期代は原告が松之浜から出勤するため購入した代金であること、タクシー代(七万七〇〇〇円)は原告の家族がお参りのため支出した交通費であること、松之浜における生活費は原告が本件事故後末の四九日法要まで松之浜の末方で生活したことにより要した食費相当の生活費であること、近隣御礼代及びその他諸費用はいずれも世話になつた近隣の人などへの謝礼として支払われたものであることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで、右認定の支出項目のうち、警察署への出頭費用は末の死亡により通常必要と認められる出費とはいえずその額も相当ではないし、タクシー代(七万七〇〇〇円)も右同様必要性及び額の相当性を認めることはできない。また南海線定期代及び松之浜における生活費は、本件全証拠によつても原告が二重生活を営んだことの必要性及び合理的理由が見出せないし、二重生活をすることがなかつたとした場合にも当然生活費は必要と考えられ、原告が損害と主張する右定期代及び松之浜における生活費の額の相当性を認めるに足りる証拠はない。次に、近隣御礼代及びその他の諸費用は近隣関係等の情宜に基づき返礼として支出されたものである。したがつて、右六項目の諸費用はいずれも本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。結局、原告が本訴で請求しうる諸雑費は、別紙目録(二)のうち事故証明書、戸籍謄本他手数料の二二〇〇円であると認めるのが相当である。

5  慰藉料 末 六〇〇万円原告 六〇〇万円

本件事故の態様、結果、末の年齢、社会的地位、末と原告との身分関係、本件事故後の経過その他諸般の事情を併せ考えると、本件事故による末の死亡による精神的苦痛に対する慰藉料として、末本人に六〇〇万円、原告に六〇〇万円をそれぞれ認めるのが妥当である。

6  相続

<証拠>によると、原告は末の子であり(この事実は原告及び被告山口、同藤野興業との間では争いがない。)。他に末の相続人はいないことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はないから、原告は本件事故に基づく末の損害賠償請求権を相続により取得したものである。

四過失相殺及び損害填補について

前記一(事故の発生について)で認定した事実によると、末はゴミを被告車後部に投棄するためにこれに接近するにあたり、同車は停車中ではあつてもエンジンを作動させた状態であり、その直近には運転者も助手もいなかつたのであるから、同女は被告車が前進するにせよ後退するにせよ動き始めるかもしれないことは予見できたはずであり、そうすると同女は同車の動静に注意を払いこれに近づく場合には同車の動きに即応して危険を避けるべきであつたのに漫然と同車に近付きゴミを後部に投棄した際後退を開始した同車を避けることができなかつた落度があり、この過失も本件事故発生の一因をなしているものというべきである。そして、末の年齢、右過失の内容、程度に、前記2(一)で認定した被告山口の過失の内容、程度、本件事故の態様その他諸般の事情を併せ考えると、過失相殺として原告の損害額の一割五分を控除するのが相当である。

ところで、一個の損害賠償請求権のうちの一部が訴訟上請求されている場合に過失相殺をするにあたつては、損害の金額から過失相殺による減額をすべきである(最高裁判所昭和四三年(オ)第九四三号、同四八年四月五日第一小法廷判決、民集二七巻三号四一九頁参照)ところ、本件事故による損害のうち本訴請求外の末の入院治療費三一万四〇九〇円を要し、被告富士火災はこれを末のために辻本病院に支払つたことは当事者間に争いがないから、過失相殺の対象となる損害額は、前記三(損害)の1ないし6で認定した額及び右入院治療費を合計した一八五〇万〇九五三円であり、これから過失相殺として一割五分を控除し、右争いのない損害填補額三一万四〇九〇円を減じた一五四一万一七二〇円が原告の被告らに請求しうべき損害額(弁護士費用を除く。)である。

五弁護士費用

弁論の全趣旨によると、原告が原告訴訟代理人に本訴の提起・遂行を委任したことが認められ、本件事案の難易、審理経過、認容額その他諸般の事情を併せ考えると、本件事故と相当因果関係のある損害として請求できる弁護士費用の額は一一〇万円と認めるのが相当である。

したがつて、原告の本件事故に基づく損害額は、前記一五四一万一七二〇円に右弁護士費用を加えた一六五一万一七二〇円となる。

六よつて、原告の本訴請求は、損害賠償として被告ら各自に対し一六五一万一七二〇円及びこれに対する損害発生の日である昭和五八年一月一五日から右支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから正当としてこれを認容し、その余の部分は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(吉田秀文 加藤新太郎 五十嵐常之)

目録(一)、(二)<省略>

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